041221

秋咲きの八重桜

 照葉樹林文化の発祥地ヒマラヤ山麓つまりネパール、シッキム、ブータンは植物の宝庫です。3万種があるといわれています。ちなみに、あの広いヨーロッパでも6000種に過ぎないと聞いています。コメ、シコクビエ、キュウリ、オレンジ類、アジサイ、・・・・はこの山麓が原産です。

16世紀大航海時代、多くのプラントハンターがこのヒマラヤ山麓にやってきました。貴族たちが城内にこぞってガーデンを造り、珍しい植物を自慢し、競い合ったからです。驚くほどの高値で取引されたようです。いま、わが国でも人気の西洋石楠花、西洋紫陽花はこのころ、ヒマラヤ山麓から船で何ヶ月もかけてヨーロッパに渡っていったものです。その後、年月をかけた改良を重ねてみごとな花を咲かせる品種をつくりあげていきました。

 ネパールにも桜はあります。日本ではほとんどのサクラは春に咲きますが、ここのサクラの多くは秋に咲きます。9月の末に長い雨季が終わります。10月に入ると無風快晴の日がつづき、ヒマラヤの頂を狙ったクライマーはこの時期を逃しません。子育てのためにインドからシベリアに渡ったアネハヅルもこの時期にヒマラヤを越えます。

 冬の前のヒマラヤは穏やかな天候にめぐまれます。サクラも山麓の高いところから咲き出し、標高1300メートルのカトマンズでは11月上旬に咲き始めます。日本のソメイヨシノをもう少し濃くしたピンク色で花の大きさはその半分ぐらいでしょうか。枝の先から少しずつ咲き始め、日本のサクラのように、厳しい寒さに耐えて耐えて、春を待って待って一斉に咲くのではありません。いつ咲くでもなくいつ散るでもなく、だらだらと一月も咲いています。だから、ネパールでは「お花見」の習慣・文化は育たなかったのかも知れません。

 「ネパールで、八重の花を見たことがありませんか」。ある日本人のお客さんに尋ねられました。私はただの飯屋のおやじに過ぎません。突然のことに驚きました。そのお客さんはアジサイの大家で、なんどもアジサイ、アマチャの原種を探しにヒマラヤ山麓の照葉樹林帯を歩いてきたそうです。あわせて八重桜探しも。「あるということは聞くのですが、場所が定かでないんでね」と残念そうでした。「八重かどうかわからないので、咲いているとき見つけにくるんだ」そうです。カトマンズのサクラが散り果てるころでした。

「もういくつ寝るとお正月・・・・」今頃に咲き始めて、「ちょうど元日に満開になる花があれば、正月の花として高く売れる」という商魂たくましいお話なのです。八重の花は実をつけません。散る必要がないので一重の花の何倍も長く咲いています。「遅咲きの八重」は宝の木になりそうです。

 ヒマラヤ山麓原産の植物は上記のみならずたくさんあります。DNAを使う改良技術が開発されアメリカはそれを戦略的に使おうとしています。「遺伝子操作」された小麦とか、トマトとか、その「安全性」とか、とりざたされて久しいのですが、遺伝子の役割の研究は急速に進んでいると聞いています。

 「遺伝子操作」にはいじられていない原種が重要とか。いま、ヒマラヤ山麓は第二次「プラントハンター」の時代なのかもしれません。