040915

日本の豊かさとは 
 現在イギリスに住んでいます。 ヨーロッパに住んでいると、人間の豊かさということについて常に考えさせられ ます。
 日本にいる時は先進国であれば、どこでも豊かさの質は同じようなものだろう と想像していたのですが、いったん外から日本を見つめてみると実は日本が豊かさからほどとおい国なのだということを強く感じます。

 ここイギリスは相変わらずの階級社会ですが、私のイギリス人の友人達-様々な職業に就いていますが-でもプライベートの生活・ファミリーとの生活をまず大切にし、趣味に親しみ、余 暇を存分に楽しむ、というように日本の大多数の人達よりはずっと心豊かに暮らして いるように思います。
 これだけ階級がはっきりしているのに、特に別の階級をうらや むわけではなく自分達の身の丈で満足できる秘密はこういうところにあるのでは、と 思います。

 日本は皆がなんとなく欲求不満なような気がするのですが。  確かに日本が先進国の仲間入りをしたのはたかだか数十年前、一方ヨーロッパ、特 に西欧と呼ばれた地域は農業自給率も高く、イタリアなどはローマの頃から一度も後 進国になったことがないというぐあいに豊さの歴史が長いという背景もあるのでしょ うか。
 また、個人主義が根付いてからの年月も長く、個人の幸福について真剣に考え る素地ができているからでしょうか。とにかく豊かさの厚みを感じるのです。

 先進国の仲間入りをして久しい日本ですが、まだまだ豊かさとはほど遠いばかり か、アジア的な社会を捨て欧米先進国的社会に突然移行したことによるひずみが一気 に顕在化しているような気がします。
 伝統的な家族制度が崩れ、個人が社会の構成要 素の基盤となるためには個人と共同体のかかわりについてもう少し見つめ直す必要が あるし、各々の幸福を追求する社会のシステムも整えられる必要があると思います。 それにしては個人と社会の関係は相変わらず成熟しているとは言い難いのではないで しょうか。
  個人が基盤になるのであれば、まず個人が組織、国家に優先されなければならない のに、先の人質事件を見てもわかるように相変わらず組織、国家が個人に優先してい ます。

 もちろん、徹底した個人主義は厳しさもともないます。欧米人と付き合っている と意外な精神的脆さに驚くことがあります。普段は自己主張の固まりのような強気な 人たちですが、いったん精神的なショックを受ける一気にくずおれてしまう様を何度 か目にしました。

 一方アジアの人々はしなる竹のような強さをもっています。なぜでしょう?
 おそ らくその秘密は家族にあるのではないでしょうか。家族、それも親子だけではなく、 祖父母、親戚、そして連綿と続く家族の記憶、生きるための知恵の蓄積、それが確か な自分の基盤としてあるからこそ、多少の傷には耐えていけるのでは、と思っていま す。

 とはいっても核家族化は高度工業化社会の必然でもあるし、再び日本がアジア的家 族主義に戻ることはないでしょう。家父長道徳規範に基づいた共同体ではなく、自立 した個人が基盤の社会になるのはとても良いことだと私自身は思っています。しか し、そのためには個々人が幸福になるための方法(例えば福祉の充実など)を真剣に 議論し実現していくべきではないでしょうか。

 人々が成熟し、自分たちの幸福、豊かさについて考えていくことは伝統的家族制度 が崩れた今我々に与えられた課題なのにむしろ人々は幼児化、退行していっている。
  家族も失い、不安定になった子供がフラフラと彷徨っているのが今の日本といえるか もしれません。

(合川美雪)