監督就任にあたって

                          西澤直志(1987年卒業)
この度、4月より萩原前監督の後を継ぎ、監督に就任した西澤です。1987年に卒業後、1990年より10年間程コーチとして学生の指導に当たってきた経験がありますが、コーチとは明らかに異なる監督としての重責を自覚して今後学生の指導に当たってゆく所存であります。
 私は、現在も主にアルパインクライミングを中心に社会人山岳会の中で活動を行っていますが、クライミングという行為は生命の危険を賭した自己実現であり、相手が自然という人間の叡智を遥かに越えたものである以上、経験者であれビギナーであれ取組姿勢としては時代を問わず謙虚かつ真摯であるべきであり、努力は惜しんではならないと考えています。コーチ時代は、彼等が山で死なない為に、自分の経験を通して培ったそういった考えを基に、厳しく指導に当たって参りました。但し、山岳部が目的意識をもった者がクライミングを通して、自己実現を行う場から、山というフィールドの中で楽しさや、目的意識を育む場に変遷してゆく中で、自分の言葉が現役部員に理解されにくい現実と、又、実践者という立場から自分の発言が絶対的な力を持ち、監督会の組織硬直化の原因に繋がると判断したことが、一旦コーチを辞した理由であります。その後は、萩原監督の基、若い世代のコーチを中心に、現役部員と新しい山岳部の在り方を模索してくれればいいと考え、指導者不足の現実を考慮すれば、いつかは又監督会に復帰せざるを得ないとしても、最低10年間は指導的立場からは離れるつもりでおりました。
 しかしながら、一昨年の木村君の事故を契機に、事故の反省会等で現役部員の活動にオブザーバーとして参加する中で、昨年より萩原前監督より監督交代の打診があり自分の中で回答を模索しておりました。木村君の事故の後、様々な文章の中で「二度とこのようなことがないように・・・」という文章を目にしましたが、自分自身、社会人として経験を積む中で間一髪という状況は一、二度はあり、正直言って私は「二度とこのようなことがないように」と言い切ることは出来ませんでした。そのことが、監督受諾を躊躇させる大きな原因でしたが、20代の前半から中頃にかけて、冬期登攀にのめりこみ出した頃、「一人位はそんな奴がいなきゃな」と暖かく見守ってくれた土田前幹事長や、現役時代、前穂東壁の落石事故でご迷惑をおかけした小倉前監督に思いを致し、自分も山岳部に対して恩返しをするべき時であると判断し、今回の受諾に踏み切りました。
 明神の慰霊碑に手を合わすとき私は常に感じることがあります。それは、ここに刻まれた方の何人の方が、山で死ぬという本当の意味を理解していたかということです。山で死ぬ資格というのは、精神的に自立しており、冷静に状況を理解し、努力を惜しまず、全力を挙げてことに当たった場合にのみ与えられる資格であり、そういった資格を持った人は死に際して、きっと自分の中で納得出来る部分があるはずです。しかし、慰霊碑に刻まれた方々に思いを致すとき、きっと無念であっただろうなという思いが先に立ち、やるせない気持ちに包まれます。これは別に当山岳部に限ったことではなく、学生の遭難の報に接するたびに覚えるものでもあります。私にとって「二度と起こしてはならないこのようなこと」というのは、「山で死ぬ資格がない者は、絶対山で死なせない」として、木村君の霊前に誓おうと思います。
 山岳部の今後の方向性についてですが、@個人の意思を尊重する、A学内の枠に捕らわれず、他大学、社会人とも積極的に交流を持つ、B現役、OB会一体となった活動を行う ことを柱として指導に当たっていこうと考えております。
最も大切なことは、多くの刺激を受ける機会を増やすことであり、刺激というものは自然から得られるものもありますが、それ以上に人から得るものが大きく、部員の少ない単一の山岳部内に留まらず、広く部外に交流範囲を広げる必要があります。そうした中で、現役部員には多くの刺激を外部から吸収し、自分なりの目的を見つけてくれればと考えています。又、村上コーチに依頼して、青学山岳部関係者のメーリングリストを立ち上げました。これは、現役部員とOB会が誘い合って山に行くことを目的として発足させたものですが、暫く山から遠ざかっていたOBの方々にも積極的に利用していただき、再び昔の仲間達と山に行く契機の一助にでもなれば幸いです。山(広くアウトドア全般)を、ライフワークとして楽しんでいるOBが多くなることが、山岳部の今後の発展には不可欠であると考えます。
 萩原前監督には、事故後の山岳部の立直しを完璧に行っていただいたこともあり、良い雰囲気のまま監督を引き継がさせていただき大変感謝すると共に、今までのご苦労に対して、改めて敬意を表する次第であります。又、指導者としては未熟者でありますが、各コーチ、現役とともに謙虚に、真摯に歩いてゆく所存でありますので、OB皆様のご指導、ご協力を今後ともお願いする次第であります。